実業家、根津嘉一郎(1860〜1940)が収集した古美術コレクションで知られる根津美術館が再オープンした(09年10月7日〜)。
建築家、隈研吾(くまけんご/03年・JR渋谷駅改修、07年・サントリー美術館ほか)の設計により3年半の歳月をかけたこの美術館、再オープンではなく「新創」という造語をわざわざ使っているように、(東京の青山とは思えないほどに)広い日本庭園は整備しなおされ、もちろん新建築である本館も、「以前の新館を建物免震の収蔵庫に改築することからはじまり、3つの倉庫と旧本館を取り壊して、新たな展示館(本館)を建設するなど大規模なもの」(ホームページから)に変えた。たしかに本館内部はゆったりとした空間であり、いささか狭苦しかった旧館とはイメージがまったく異なる。
10月7日からは、「開館から1年間は、8回にわたる新創記念特別展を開催し、コレクションを代表する優品の数々を新しい展示環境の中でご覧いただきます」(同)と、第1回目は国宝の「那智瀧図」がメインとなった。御神体(飛瀧権現=ひろうごんげん)である滝そのものを描いたこの珍しい作品は、光琳の「燕子花図」(国宝)と並ぶ同美術館が誇るコレクションであることは言うまでもない。
和敬庵HPの読者としてみれば、注目のひとつが根津嘉一郎が集めた茶道具だろう。千利休作となる飴色に光る象牙の茶杓も面白かったし、また「初陣茶会」として、嘉一郎が初めて自宅で茶会を開いた時(大正7年、1918年)を再現してみようというミニ茶席も、展示室6で披露されていた。その中に展示された一つが、(伝)西行の筆による「寺落葉」(落葉切・熊野懐紙断簡)。
「せきでらや人もかよわず なりぬれば もみぢヽりしく にはのをもかな」
床に置かれた花生(伊賀耳付花生、銘・寿老人)との「枯れ味」とあいまって、なかなかのものでした。
従来から根津コレクションは定評があるから、展示品のもろもろはさすがのレベルだった。ただ問題は、館内の音の反響が強すぎて、来場者によるあちこちからの私語が響きわたり、うるさいのだ。じっと見ていることができない。オシャレな建造物であり、たくさんの資金を投入した建造物であるのに、どうも肝心な初歩的なところにミスがあるように思えた…実はこれって、かっこいい文化建築に、わりとありがちなことなんですね。
(文・TADASHI)
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新創記念特別展 第1部
新・根津美術館展 国宝那智瀧図と自然の造形
2009年10月7日(水)〜 11月8日(日)
10月12日(月・祝)開館・翌13日(火)休館
ホームページ:
http://www.nezu-muse.or.jp/index.html